現代の和風について



市内に計画していた、住宅が先日、無事引渡が終わったので少し言葉にしようと思います。




この家は周囲が緑に囲まれた「日本間」、「洋間」が隣り合う、
二間つづきの家です。

従来、日本の民家には畳の間が、ごく自然な存在として家の中に存在しました。

書院造や数寄屋造をはじめとして、

日本の伝統的な家は畳の間が連続したり、

畳の部屋自体が廊下や庭によって囲まれ独立していたり、

畳の部屋がなかったりと一つの時代と様式で完結していたのに対して、

現代の民家は欧米文化の影響で生活習慣が変化し、

外国から倣ったフローリングによって床が構成されています。


「現代の和風住宅」とは畳を用いた「日本間」とフローリングを用いた「洋間」が隣接する家であり

おおげさに言えば、国と時代が異なる要素が隣り合う状況のようなものだと考えます。


さらに真壁造(柱を見せて壁を構成した造り方)では、

壁はほとんどなく、場所の印象は建具が決めるといっても過言ではないので、

本計画で重要だったのは、

諸室同士の境界線となる欄間や襖、障子といった建具と、それに付随する枠でした。


今回はその日本間と洋間を繋ぐ建具は戸襖とし、

和室側から見ると襖、洋間側から見ると板戸に見えるような建具を採用しました。

建具枠も同様に畳の間とフローリングの間で色調を揃えて素材を切り替えることを試みています。




日本間には必ず長押(なげし)という枠材があります。

長押は「和風」を決定づける装飾であると同時に統一感を全体にもたせる役割を担っています。

現代は「多様の時代」と呼ばれるように、

家内も同様に素材にしろ、諸室にしろ、家電にしろ、

一つの場所を構成する要素が昔に比べて増えた。

そんな様々な要素が混在する間を繋ぐものとして、

「現代の長押」とは何かを模索し、薄く、長さをもった長押を提案しました。



日本文化の基盤は「ないものを、あるように捉える」概念です。

そこで土地が狭く、資源がない状況でも、

茶室、床の間、庭園のように、限られた小さな場所に少ない材料で、

いかに想像上の宇宙をつくるかを追い求めることができました。


「現代の長押」は水平方向だけでなく、垂直方向への広がりも喚起させると同時に、

どんな多様な状況も受け入れる「しなやかな境界線」として存在できるのではないかと期待しています。


昨年から約1年間すべての工程を見守ってきて、

自分の中で単なる粒子の集合体から、命をもったかけがえのない存在に変化していきました。

これから幾年の四季と共に敷地に馴染んでいくような建築になってほしいです。

今回の設計に携わった全ての人へ感謝の気持ちを表すと同時に

これからも、この家を末永く見守っていきたいと思います。